イロマチディープ・チャイナ

裏風俗、心霊スポット、憩いのバーなど、中国のディープスポットをご紹介。中国の釣り情報やコラムも書きます。

甘粛省刘家峡の繁華街。羌族の懐メロ酒場でいじめられた話

私はしばらく、「甘粛省永靖県ウイグル族自治州」に滞在していた。ウイグル族以外にもチベット族羌族といった少数民族たちが暮らす地域だ。上海からは2000キロ余りの距離にある。

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*市街地の遠景写真。流れる川は大河「黄河」の本流。上流まできて、だいぶ細くなったものだ。

 

現地へ行ってみて驚いた。ずっと県の中心である「劉家峡鎮」という街に滞在していたが、とても賑やかで発展しているのだ。市場や小さな個人商店のみならず、モールなどの大型の商業施設もあった。西洋風の落ち着いたバーも何軒か見つけたし、KTV(カラオケ)は十軒以上もあり、クラブも三、四軒はあるようだった。

県の中心とはいえ、甘粛省省都「蘭州」から100キロも山間に進んだ地域だ。こんなところに「繁華街」があるとは思っていなかった。さらに言えば、そういったアルコール系の繁華街が、酒禁のイスラーム教を信仰するウイグル族が多い「ウイグル族自治州」に存在していることも驚きだった。

 

カラオケ居酒屋で懐メロ肴に酒を飲む

そんな繁華街を散策している時だ。

看板に「舞厅(クラブというか、バーというか。いつも曖昧だ)」と書いてある店に辿りついた。受付でどんな店なのかと聞いてみると、「怪しくないよ、みんなで古い歌を歌うところだよ」と、優しげなウイグル族の中年男性が答えてくれた。

「カラオケ居酒屋だろうか?」筆者のディープ趣味が猛烈に掻き立てられた。私は日本でもカラオケ居酒屋を愛好している。私はたちまち店の二階へ向かった。

店内には演奏用の舞台を囲んで席が40人分はある。時刻は21時過ぎで、飲み屋が盛況する頃合いだ。半分以上の席は既に埋まっていた。客は中年の男性が多く、よぼよぼのお年寄りもいる。私は舞台の正面にあるソファーに座った。

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*一般客のおじさんが歌う。音程は明後日の方向へ飛ぶ。

 

「初めて来た」と伝えると、ビールは一本8元で、入場料はないと説明される。ひまわりの種をサービスでおつまみに出してくれた。私は中国経験がいかんせん浅いからか、中国人が大好きなひまわりの種の食べ方がへたくそだ。四苦八苦して殻を割っては中身をほじくり出し、ビールを傾けつつ歌を聞く。

 舞台では、中年の女性と男性が交互に歌っている。店内には女性がほとんどいないのに、女性ばかりが歌っていた。どうやら、この女性たちは「歌い手の仕事」をしているらしく、歌いたくなった一般客が歌う以外には、場をもたせるために彼女達が歌っているようだ。歌の内容は定かではないが、どこか郷愁を誘うような民謡ばかりで、きっと一昔前の歌なのだろう。歌声はなめらかで、聞いていて心地がいい。

歌い終わると拍手が起きる。感極まったおじさんが舞台へ歩いてきて、花の輪や首飾りを歌い手の女性の首にかける場面もあった。尚、それらはそういう時のために用意された店の備品である。

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*従業員の女性が歌う。一応、首にかかっているのは首飾りという扱いになっている。

 

アルコール・ハラスメント営業を受けて 

しばらくすると、舞台で歌を歌っていた女性が私の席へやってきて、「あなたじゃ歌を聞いても分からないでしょう?」と尋ねて来た。ひまわりの食べ方が下手くそだから、外国人だとバレてしまったのだろうか。

歌の内容はまるで分からないと伝えると、「そうでしょう、だってこれは羌族の歌だもの」と言う。実は、店内にいる他の男性客は全て羌族で、この店は羌族が故郷の民謡を聞いて楽しむ憩いの場になっているのだという

カラオケの中で使われている言葉は「青海語」だと言っていた。青海とは、甘粛の隣の青海省を指しているのだろう。私が話をしている女性も青海省の出身だ。ここへは出稼ぎに来ているのだという。

女性は歌いつかれた休憩がてら、ずっと私の隣に座って話を振ってくる。やがて、私の出身地の話になって「日本人だ」と答えると、彼女の目の色が変わってきた。どうやら、当初は南方の人間だと思われていたらしい。

私が金持ちジャパニーズであると判明してから、怒濤の酒飲み営業が始まった。次々にビールで乾杯を迫ってくる。

私に合わせて彼女も飲むが、それにしても彼女は酒豪だった。ビールをコップで5、6杯を飲み干した頃、私は気持ちが悪くなってきた。それでも、彼女はへっちゃらだ。故郷では、あいさつ代わりに、先ず白酒をコップなみなみに次いで飲み干すのが普通だと言っていた。

乱暴な飲酒は嫌いだ。酔った私は帰りたくなった。

「一本8元だよね?」とビールの値段を尋ねると、いや違う、10元だと言い張る。

ビールは、この一時間で25%も値上がりしていた。ビール相場がこんなにもボラティリティが高いとはまるで聞いたことがない。

疲れた金持ちジャパニーズの私は、店の言い値で少しだけボラれてホテルに帰った。こういうボラれ方をすると、いつでもいつも日本人であることを止めたくなる。

 

以下、コラムに続きます。

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